うつ基礎講座

中級 うつ病と間違われやすい病気

心の症状が見られる病気は、うつ病以外にも存在します。うつ病とはまた違った形で心の症状が出てしまう病気を、近年では「神経症性障害」と呼ばれるようになりました。神経症性障害という名前は耳慣れないものですが、神経症性障害の中に分類される「パニック障害」や「PTSD」という名前は、テレビなどでも取り上げられているので聞き覚えのある方も多いといえます。ここでは、神経症性障害などうつ病に似た間違われやすい病気をご紹介します。

不安障害

人間は誰しも「こうなったらどうしよう」「ああならなければいいな」という不安を抱えるものです。通常であれば不安には明確な原因があり、その原因を対処すれば不安を取り除くことができるはずです。
不安障害は、原因を対処することで解決できるはずの不安を継続的に抱いてしまう障害です。不安の要因は様々で、「出かけている間に自分の家に泥棒が入ったらどうしよう」「銀行に行ったら銀行強盗に出くわして人質にされてしまうかもしれない」というように身近な場所に起因するものや、災害や不慮の事故に対する必要以上の不安なども見られます。
不安障害という名前が付くまで、このような病気はひとまとめにして「神経症」」と呼ばれていました。現在でも、不安障害という病名はあまり知られていません。そのため、治療が必要な病気であるという認識もされづらく、症状を抱えたまま長く苦しんでいる方も多くいます。

パニック障害

動悸やめまい、手足の震えや窒息感、発汗などの発作が前触れもなく起き、日常生活に支障が出てしまうような状態をパニック障害と呼びます。
この発作は自身でコントロールすることができず、そのため発作を恐れて外出を避けるようになってしまいます。特に電車やエレベーターなど、閉鎖された空間を「逃げ場がない」と感じて避ける傾向がみられます。
パニック発作は心筋梗塞など循環器や呼吸器の病気によく似ているため、最初はそのような病気を疑って病院を受診する方もいますが、精密検査でも原因箇所が見つかることはありません。
原因がわからないまま発作を繰り返すうち、発作に対する恐怖がさらに大きくなっていきます。
パニック障害には「予期不安」という症状があります。これは一度発作を経験して「また発作が起きるのではないだろうか」「またあんな発作を経験したら死んでしまう」など、まだやってきていない発作に対して恐怖をさらに強めてしまう症状です。
パニック障害における投薬治療の第一目的は、発作が起きないようにすることです。その後、予期不安の軽減も視野に入れます。パニック障害は精神療法的なアプローチだけでは改善できません。心療内科や精神科の医師の指導の下、正しい薬の服用とカウンセリングを行う必要があります。

強迫性障害

慌ただしく家を出たときに「ガスの元栓を締めたかな」「鍵をかけてきたかな」と心配になることは、誰にでもあるといえます。強迫性障害は、このような小さな心配事に異常に執着し、日常生活にまで支障が及んでしまう病気です。
強迫性障害の症状でよく例えられるのが「細菌などに汚染された気がして、何かに触るたびに手の皮がむけるくらい手を洗ってしまう」というものです。世界保健機関(WHO)が「生活上の機能障害を引き起こす10の病気」の1つとして定めているほどに、強迫性障害の症状は強いものです。

強迫性障害の症状は大別すると2つあります。
1つは「強迫観念」です。思い浮かんだことが頭の中から離れず、たとえそれが合理的でない考えだと自覚していても、そのことについて考えざるを得なくなってしまう症状です。
2つめは「強迫行為」です。先に挙げた「手洗い」の例はこれに当たり、強迫観念を根拠にした強い不安に追い立てられるように偏執的な行動を取ってしまう症状です。「こんなにやっても意味がない」という自覚があっても、やめられないのです。
強迫性障害の症状は個人差が大きく、ラッキーナンバーや自分の誕生日、自身に由来のある数字などに執着し、ロッカーの番号や電車の時間などに異常なこだわりを見せるというものや、家具などの配置が必ず対称になっていないと不安を覚えるなどの症状がみられます。
強迫性障害は、自発的な対処が難しい障害です。おかしいと自覚していても、それを止めることができないのです。
周囲の方からが気付いたら、率先して専門機関への受診を勧めることが大切です。
強迫性障害では、投薬治療のほか、認知行動療法という治療法が確立されています。認知行動療法とは、考え方を改め、病気に対してのスタンスを切り替えていく治療方法です。アドヒアランス(患者自身が治療方針の決定に携わること)を行うことで、少しでも「治そう、治したい」という意思を持つことが何よりも重要です。わからないこと、不安なことは医師にきちんと相談しましょう。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

心的外傷後ストレス障害(PTSD)という障害は、近年になってよく知られるようになりました。
いわゆる、トラウマのことです。
心に大きなショックを受けてしまうような体験や精神的ストレスが心に消えない傷痕を残し、時間が経った後もその出来事に由来する恐怖や不安が消えなくなってしまいます。
安全な所にいてもストレスの原因になった体験を思い出してしまったり、めまいや頭痛などが引き起こされたり、心身ともに緊張が解けない状態が続きます。
発症時期は人によってまちまちで、ストレスの原因となる体験から数週間後であることも、何年も経過してから発症することもあります。
PTSDの症状は継続的に発生し、数ヶ月、数年と続くこともめずらしくありません。自然にトラウマを克服する人もいれば一生悩まされ続ける人もいるのです。
積極的に治療を試みるときには、専門の医師やカウンセラーを訪ねてみてください。「持続エクスポージャー療法」という、ストレスの原因になった場面や出来事をあえてイメージすることで、もう危険はない、安全な場所にいる、という実感を呼び起こす療法や、不眠などの症状に対する投薬治療が行われています。

統合失調症

統合失調症とは、脳に備わっている思考能力や意思決定能力が衰え、心や身体の働きを自身でコントロールすることができなくなってしまう症状のことです。そのため、日常生活や人間関係に支障がでる恐れがあります。
統合失調症の現れ方には2種類あり、健康なときには全く現れなかった症状がみられる「陽性症状」と、健康なときには当たり前だったことができなくなってしまう「陰性症状」があります。
陽性症状の典型例として、妄想や幻覚が挙げられます。例えば、テレビやインターネットで自分の情報を流されている、悪意を感じるといった「関係妄想」や、周囲の人が自分を嫌い、いやがらせをしていると思い込む「被害妄想」などがあります。
陰性症状では、やる気、意欲が低下したり、感情表現が乏しくなるなど、うつ病によく似た症状が現れます。このため、統合失調症とうつ病はしばしば混同され、同じ病気として扱われることもあります。
統合失調症の発症原因は未だに解明されていませんが、国内の統合失調症を患っている人は80万人を超えているといわれています。めずらしい病気ではなく、誰もが患う可能性があるのです。
統合失調症には、発症直後で落ち着きがなくなる急性期、症状は収まったもののけだるさが抜けない消耗期、ゆっくりと回復していく回復期があります。回復期に入ったからといって治療をやめてしまうと、再発の恐れがあります。医師とのカウンセリングを繰り返し、病気と長く付き合っていくことが何よりも大切です。