うつ基礎講座

初級 うつ病の「心」の症状

「心」に現れる抑うつ症状

うつ病を患ってしまうと、心と身体の両面に様々な症状が現れます。
これを、「抑うつ」といいます。
抑うつはうつ病の主要な病状の1つですが、うつ病に特有の症状というわけではありません。
例えば嫌なことや悲しいことがあったときには、誰でも一過性の抑うつになります。これは至って健全な精神活動で、通常であれば時間の経過や気分転換をすれば改善されます。
ですがうつ病の方の場合、一度抑うつの状態に陥ってしまうと、そこから回復することは容易ではありません。立ち直るためのエネルギーが、うつ病の方には不足しているのです。
そのため、一過性ではなく長期間に渡って継続してしまいます。また、通常の人よりも重度の抑うつになりがちで、身も心も疲れ果ててしまいます。

心の痛みは、ご自身にしかわからない非常に厄介なものです。
うつ病で悩み苦しんでいても、周囲からはそれがうつ病の症状によるものなのか、それとも一過性のものなのか判断することが困難となります。また、意欲や思考が低下しているうつ病の方にとって、周囲に助けを求めたり、自発的に医療機関を受診しようと決意することは容易ではありません。
そのため、うつ病の方の自己判断と周囲からの判断が食い違ってしまうことも多く、うつ病のメンタルヘルスケアにおける大きな問題になっています。

気分障害(感情障害)

主な抑うつ症状として、気分障害(感情障害)が挙げられます。
通常、人は嬉しいことがあれば喜び、嫌なことがあれば悲しみます。もちろん、感情の動き方や、何に気持ちが動かされやすいのかは人によって違いますが、方向性はほとんどの人に共通しています。
ですがうつ病の方は、嬉しいことがあったときに喜んだり、嫌なことがあったときに悲しむことがとても難しい状況にあります。気分や感情と身体がバラバラの反応をしてしまい、コントロールすることができないのです。
これが、気分障害です。
この症状は、ごく軽度のものであれば日常的に誰にでも起こりえるものです。例えば、風邪やインフルエンザなどの病気にかかっているときには、うつ病を患っていない方でも一過性の気分障害に陥りやすくなります。これは、気分や感情を落ち着けることで余分なエネルギー消費を抑え、体調の回復に専念するためだと考えられています。
一過性の気分障害であれば、原因が解消されることで改善されます。ですが、うつ病の方の場合、気分障害に一度陥ってしまうとそこから抜け出せなくなってしまうのです。
ご自身にとって大きな精神的負担になるほか、対人関係にも問題がでるようになるなど、日常生活に支障をきたすようになってしまいます。

意欲の低下

お腹が空いたから、料理をする。
寒くなったから、押入れからコタツを出す。

このように、どんな行動も「意欲」に支えられています。意欲というのは、興味、関心を持つものに手を伸ばそうとする心の働きです。もし何事にも意欲を持てなくなったら、何をすればいいのか、何をしたいのか、自分でも分からなくなってしまいます。
うつ病の方の心は、まさにそういった状態にあるのです。
これまで楽しんできた趣味が、途端につまらないもののように感じてしまうことも、うつ病の典型的な症例の1つです。楽しいことをしたいという意欲が低下すると、今までどんなに好きだったものでも、急に価値がないもののように感じられたり、趣味に没頭していた自分を虚しく思ってしまうようになってしまいます。
もちろん誰にでも、また何に対しても、「飽きた」と感じて興味や関心を失ってしまうことはあります。
ですが、うつ病の方の場合はご自身が自覚できるような理由なく、興味や関心を途端に失ってしまうのです。何かをしたい、という意欲が沸かなくなると、気分転換してスッキリしたいと思うことも難しくなります。仕事や学業に専念することができなくなるほか、日常生活にも支障をきたすようになります。
一般的に、この切り替わりは突然、そして劇的に現れます。そのため、このことをきっかけとして周囲の人がうつ病に気づくこともあります。

思考の低下

「思考の低下」は、うつ病の典型的な症例の1つです。
私たちは、日々物事を考えたり、想像を膨らませたりしています。思考から人格が生まれ、性格や個性が育まれます。思考はその人のパーソナリティーを決定するために、とても重要なものです。そのため昔は、人は頭で考えているのではなく心で考えている、とされていました。
生理学的な面からいえば、人は脳で物事を考えています。さらにミクロな観点でいえば、神経間を様々な伝達物質が行き来し、その反応によって思考が生まれています。
うつ病の主要な症状によって思考の低下が引き起こされるという事実は、うつ病が心の弱さではなく、脳の機能低下によって引き起こされることを示しています。
うつ病を患うと何かを考えたり、見たものや聴いたものに対して充分な反応を返すことが難しくなります。これは、神経伝達物質の分泌量やバランスが崩れてしまうためです。例えば神経伝達物質のセロトニンが異常に分泌されると、脳の海馬と呼ばれる組織が収縮してしまうことがわかっています。海馬は記憶を司る器官なので、セロトニンによって海馬が縮小してしまうと記憶力が低下し、物事を覚えられなくなってしまうのです。
また、人は考え始めるのと同じように、自発的に考えを止めることもできるものです。ですが、うつ病の方にとってはそれも簡単ではありません。考え始めてしまうととりとめなく考え続けてしまい、ストップがかけられなくなってしまいます。既に過ぎてしまったことをいつまでも思い返してしまう反芻思考や、自分の判断や考えをすべて否定してしまう否定的思考に陥りがちになります。
その結果、現実と区別のつかない妄想に陥ってしまうこともあります。
典型的な妄想の例では、いわれのない罪悪感を背負い込んでしまう罪業妄想や、ちょっとしたことでも重篤な病と結びつけてしまう心気妄想など、とにかく自分を過小な存在だと思い込んでしまう傾向があります。なお、こういった妄想のことを総称して「微小妄想」といいます。