うつ基礎講座

初級 「うつ」と「うつ病」は違う

うつとうつ病の違い

うつには様々な病態があります。例えば、秋から冬にかけて発症することの多い冬季うつ病、内面的な症状より身体的な症状が強く現れてしまうことでうつ病であると気づきにくい仮面うつ病、特定の場所やタイミングで気分が沈んだり身体が動かなくなってしまう新型うつ病などが例として挙げられます。
それぞれ、うつの原因や細かな症状や有効な治療方法などが異なります。ですが、どれも「うつ病」というカテゴリーに含まれる病気であるという点では共通しています。
それでは、うつという名前がつけば、すべて同じ病気なのでしょうか。
実は、そうではありません。例えば、「うつ病」と「うつ状態」。一見、同じものを指しているようですが、細かくみればずいぶんと大きな違いがあります。
ここでは、うつ病とうつ状態の違いについてご紹介します。

憂うつになる病気と、憂うつな気分

うつ病とうつ状態の違いを一言で表せば、「うつ病は憂うつになる病気、うつ状態は憂うつな気分になっている状態」ということになります。
悲しいことや辛いことがあれば、落ち込んでしまって憂うつな気分になるものです。これは誰にでも起こりえる、ごく当たり前の感情的な反応です。気分が暗いと何事にも興味が持てなくなってしまいますし、身体を動かすのも億劫になってしまいます。
こういった症状だけをみれば、うつ病もうつ状態もほとんど同じといえます。
ですが、それ以外おいてはうつ病とうつ状態には大きな違いがみられます。

症状の強さ

うつ病とうつ状態では、うつ症状の強さが異なります。
例えば、うつ病ではしばしば空想と現実を混同する「妄想状態」に陥ってしまいます。妄想状態では、現実よりも妄想のほうを優先してしまい、妄想が現実の行動や考え方に影響するようになります。
典型例では、自分がひどく罪深いものであるように思えてしまう罪業妄想や、自分が重い病気を患っていると信じこんでしまう心気妄想などがあります。こういった思い込みや妄想は日常生活を阻害してしまうほど強く、自分の力だけで振り切ることは簡単ではありません。
また、その妄想が誤りであると第三者から指摘されたり、誤りであるという確かな証拠を目にしたとしても、それが事実であるとなかなか信じることができないのも特徴です。
一方で、うつ状態の場合には、妄想状態に陥るほど強く思い込むことは稀です。一時的に誤解や勘違いを事実だと思い込んでしまうことはあっても、第三者からの指摘や誤りであるという証拠があればそれを受け入れる判断力があります。

回復の傾向

うつ病とうつ状態では、回復の傾向が異なります。
うつ病の診断基準には、うつの症状が「2週間以上にわたって、ほぼ毎日」起きることが含まれます。うつ病の症状は、断続的ではなく継続的に生じるものです。日内変動のために、1日のうちで調子が良くなったり悪くなることはあっても、うつ病が完治するまで症状そのものが緩和されることはほとんどありません。また、医療機関による治療で症状が一時的に改善されることはあっても、自然に治ることは稀です。
一方で、うつ状態の場合では様々な要因がきっかけとなって気分が回復することがあります。例えば、悪い出来事がきっかけで気分が沈んでしまっても、辛さや悲しさを打ち消すほど良い出来事に巡りあえば立ち直ることができるのです。また、時間の経過によって自然と回復することも多く、原因を解決したり、原因から遠ざかっているうちにうつ症状が緩和されることがあります。

治療の方法

うつ病とうつ状態では、適切な治療方法が異なります。
うつ病は、脳の働きが弱まっていることが原因となります。他のあらゆる病気と同じく、早期に専門の医療機関による治療が望まれ、抗うつ薬の服用が効果的とされています。
うつ病の治療薬には様々な種類があり、それぞれで作用も異なります。一般的に用いられている薬は「三環系抗うつ薬」と呼ばれ、うつ病によって減少してしまう神経伝達物質の量を正常に戻す作用があります。脳や脳神経の復調は、個人的な努力や気の持ちようでどうにかなるものではありません。医学的な処置を講じる必要があります。
一方、うつ状態の治療には投薬よりも気分転換が推奨されます。うつ状態の落ち込みや体調不良は一過性の場合が多く、精神状態に大きく左右されるため、心の面からのケアが重要になります。
友達と会って話したり、趣味に没頭したり、人によっては仕事に打ち込むことで改善が見込めます。症状のことばかり考えて不安になるよりも、気を紛らわせて楽しく明るい気持ちに切り替えることが大切です。

身体的な反応

うつ病とうつ状態では、身体に現れる反応が異なります。
うつ病の症状は、心だけではなく身体にも現れます。口数が少なくなる、表情が乏しくなる、動作が鈍くなるなどの身体的症状は、うつ病の典型的な症例です。こういった症状は、うつ病にかかるまでの性格とは無関係に起こるため、周囲からは「急に人が変わったように」感じられます。
一方で、うつ状態の場合には身体的症状がほとんどみられません。うつ状態では、気分の落ち込みややる気の喪失など内面的な変化が主な症状で、身体的な症状が現れることは基本的にありません。気分の低下に伴ってやる気が損なわれてしまうことはあっても、それが身体機能を低下させることは考えにくいのです。

うつ病とうつ状態の見分け方

このように、様々な点でうつ病とうつ状態には違いがあります。
しかし、具体的にはっきりとした区別が用意されているわけではなく、むしろうつ状態の延長線上にうつ病があると考えたほうが、より理解しやすいでしょう。
うつ状態であれば、まだ深刻な問題には至っていないと考えられます。一過性の場合が多く、時間経過や気分転換によって治癒できることが多いためです。一時的な落ち込みややる気の低下は誰にでも起こりえるものなので、あまり気にしすぎることなく、ゆっくり休息をとったり趣味に没頭して自然に気持ちが回復するまで待つのも効果的です。
それでも気分が晴れない、そもそも何かをしたいと思えない、というときには、うつ状態ではなくうつ病である可能性があります。
その判断が自分ではできないという場合には、1つの区切りとして、2週間を目安にしてみてください。2週間以上も調子の悪さを感じるようであれば、うつ病を疑って、専門の医療機関で受診することも大切です。