うつ基礎講座

中級 うつ病の種類

研究が進み、近年ではうつ病にも様々な種類があることがわかってきました。一度は名前を聞いたことがあるものや、あまり知られていないものまで、いくつか取り上げてご紹介します。

仮面うつ病

名前だけを一見すると「うつのふりをしている」ようですが、仮面をかぶっているのはうつ症状です。これは「身体の症状が先に現れ、うつだということを自覚できないうつ病」のことです。仮面うつ病において身体に現れる症状は多岐にわたり、表面的な症状のみを治療しようとしてもうつ病の根治には至らないため解決できません。そのため仮面うつ病の方は、症状に応じた病院を渡り歩いてしまうこともあります。
仮面うつ病の場合に見られる症状の一部をここに列挙してみましょう。

  • 口内の違和感や乾き
  • 舌の痛み
  • 頭痛
  • 喉のつかえ
  • 嘔気
  • 動悸
  • 肩こり
  • 胃の不快感
  • 胸部の圧迫感や不快感
  • 手足のしびれ

上に挙げただけでも、現在知られている様々な病気の先触れとされる症状が含まれており、身体の病気なのか仮面うつ病なのか、初期段階では非常に判別しにくいことがわかります。病院を渡り歩いて検査を受け、医師から「どこにも原因はない」と診断されて初めて、「もしかするとうつの症状なのではないか」と判断の糸口がつかめるようになります。医師のカウンセリングで初めて抑うつ気分やうつ症状を併発していることが判明し、やっと「うつ病」と診断がくだされたという例もあります。
最近になって原因のわからない身体的症状が現れた、病院で受ける治療や薬を飲んでも効果がない、というような方が身近にいたら、気分が落ち込むようなことがないか、よく眠れているかなど声をかけてみてください。仮面うつ病は自覚できないうつ病です。周囲の方の何気ない一言でわかることもあるのです。

退行期うつ病

主に60才から65才の、老年期にさしかかる頃に発症することの多いうつ病です。発症した年齢や性別によって「初老期うつ病」「閉経期うつ病」「更年期うつ病」などと呼ばれますが、原因や症状はほとんど同じです。
身体が衰えてゆくことで、今まで当たり前にできていたことが難しくなったり、老年期に差し掛かったことで死を強く意識するようになったり、仕事の能力が低下していることを自覚するなど、加齢に伴う自身の変化が主な原因とされています。
初期状態では抑うつ気分は少なく、感情や意欲なども活発です。しかし進行するにつれて身体的症状を訴える「仮面うつ病」へ発展したり、元気なように見えても心の中では無気力や自尊心の低下などが起こっている「軽度うつ病」へと変化してゆくこともあります。また、自分を過小評価する「微小妄想」にとらわれ、物事を悪い方向にばかり考えてしまう症状も見られます。
身体の症状を訴え続けていると、周囲の人は振り回されているように感じ、取り合わなくなってしまいます。すると元々潜んでいたうつ症状の「希死念慮(死を考え、あこがれること)」が強まり、最終的に自殺を考えたり、決行してしまうこともあります。
退行期うつ病は、仮面うつ病と似ています。うつ病は生活や身体の変化に伴い引き起こされるので、家族だけでなく、カウンセラーや医師にも傾聴の姿勢を協力してもらうことが大切です。退行期うつ病にとっ最も大切なのは、安心感を得ることなのです。

微笑みうつ病

これは軽度のうつ病の方の中でも、特に気配り上手で、周囲をよく気にする方にみられます。落ち込んで暗い顔をしているとき、周囲から「どうしたの?」「大丈夫?」と心配されると、即座ににっこりと微笑んで「自分はなんともない」という姿勢を見せてしまうのです。笑顔を見せられた方は「そう? ならいいんだけど」と納得することになります。これにより、うつ病の発覚がますます遅くなってしまいます。
微笑みうつ病の特徴としては、仕事中や家族など、誰かと一緒にいる時は明るく笑顔を絶やしませんが、1人になると表情が曇り、気分が落ち込むといった点が挙げられます。明るく振る舞っていたときの反動も相まって、心がくたくたになってしまうのです。
微笑みうつ病は、うつ病の度合いとしては軽度に分類されます。しかし大うつ病などに比べて気力が残っているため、希死念慮などを抱えている場合には本当に実行に移してしまう恐れもあります。
本人に微笑みうつ病であるという自覚はなくても、不安やイライラ、睡眠不足などの症状が2週間ほど続くときは、心療内科や精神科を一度受診してることが大切です。

季節性うつ病

四季の移り変わりに影響されて発症するうつ病があります。この「季節性うつ病」の中でも最も有名なのが「冬季うつ」です。
冬季うつは、名前のとおり冬季にかけて発症するうつ病です。本格的に寒くなり、陽もだんだんと短くなってくる10月から12月に発症し、暖かくなる3月頃に回復するというものです。原因には諸説ありますが、日照時間が短くなるにつれて、バイオリズムや体内分泌物のバランスが崩れることが一因と考えられています。他のうつ病と異なり、時間が経過して春を迎えれば自然と回復するため、冬季うつであることを自覚できない方もいます。
冬季うつの特徴的な症状として、過眠と過食が挙げられます。過食の場合、チョコレートやスナック菓子などの甘いものを異常に欲しがるようになり、胃の許容量以上に食べ続けてしまうことがあります。また過眠は、日に10時間眠ってもまだ眠気を感じるなど、普段の生活では見られない変化が起こります。
冬季うつの改善方法として、光照射療法があります。これは一般的な電気スタンドよりもさらに強い光を浴びることにより、脳に働きかけて生活リズムを整える治療法です。また、朝起きたときにカーテンを開け、朝の日差しを浴びながら朝食や身支度をしたり、部屋の整理整頓など軽い運動を行うと、脳から抗うつ作用のあるホルモンが分泌され、症状が抑えられます。
季節が過ぎ去るのを待つだけではなく、日々の生活の中から改善していくのも大切なことです。

産後うつ病

女性には耳慣れた言葉かもしれません。出産後に気持ちが落ち込んだり、わけもなく悲しくなったり、食欲不振などの症状が出ることもあります。
産後うつの主な原因は、妊娠中と出産後で体内のホルモンバランスが著しく変化する点にあります。妊娠中は血中の女性ホルモンが少しずつ増えてゆき、出産を機に血中の女性ホルモンが低下し、妊娠前の値に戻ります。この女性ホルモンの急激な減少が、気分の落ち込みなどのうつ症状を引き起こす原因とされています。
なお、女性は出産することで生活環境が大きく変化します。生後間もない赤ちゃんは昼夜問わず世話が必要になり、睡眠時間が削られたり赤ちゃんと一緒の生活のための準備にてんてこ舞いになったりと、心の休まる暇が少なくなります。そういった変化に日々追われているうち、うつ症状を発症してしまうことも多いといわれています。
出産を経験した女性の10%から15%は、程度の差を問わず産後うつを体験しています。産後うつは、めずらしい病気ではありません。
母親の精神状態は、赤ちゃんにも関係してきます。母親の気持ちが沈みがちになったりイライラしていると、それにともなって赤ちゃんも不安定になり、泣くことが増えてしまいます。そうして産後うつを深めないためにも、思い当たる症状があればすぐに専門の医師を受診することが大切です。

うつ病の原因は様々です。身の回りに大きな変化が起こったときは、いつも以上に自分の心や身体に注意を払うことが大切です。心も身体も、何かのサインを出しているはずです。周囲の人に「大丈夫?」「最近辛そうだね」と声をかけられたら、気軽に専門医に相談しましょう。