うつ治療のいま

うつ病の診断基準

世界的な診断基準と日本の診断基準

現在、うつ病の診断については血液や身体的データなどの客観的観点のみで行うことはありません。最新の治療法によって得られた客観的データからの診断を補助的に使うことはありますが、主たる診断方法は医師による患者本人や家族への問診や聞き取りの結果に基づいています。 うつ病の診断として世界的に使われているのは米国精神医学会が1994年に提唱したDSM-IV(ディーエスエム・フォー)の診断基準です。患者さんが訴える症状のみに焦点をあてて診断する方法で、患者さんの性格や発症誘因については考慮に入れません。 一方、日本では、DSMが導入される以前は、患者さんの訴える症状の確認に併せて、うつ病の発症誘因があるかどうか、また生育歴や病歴、病前性格などを総合的に考慮して診断する方法がメジャーでした。DSMが導入される以前の分類や診断ということで、「従来型分類・診断」と呼びます。現在の日本では従来型分類・診断とDSM-IVの両方が使用されています。

従来型分類・診断(DSM-IV以前からの分類と診断)

内因性のうつ病や双極性うつ病における従来的な分類は以下のとおりです。

 

内因性のうつ病、双極性うつ病の従来型分類

 

■双極性うつ病
 ∟躁状態とうつ状態の両方、あるいは躁状態のみを症状とする

 

■単極性うつ病
 ∟うつ状態のみを症状とする

 

■身体因性うつ病
 ∟脳の病気や他の生活習慣病など、他の身体疾患に伴い、うつ状態につながるもの

 

■抑うつ神経症(神経症性うつ病)
 ∟いわゆるノイローゼにおけるうつ状態。自殺に及んでしまうような重症化はまれで、
  典型的なうつ病とは異なった症状を現す。

  抗薬物療法に効果が得られないことが多く、うつ病に含めないという考えもある

 

内因性の単極生うつ病の診断について説明します。
「内因性」という診断が付けられるのは、発症に際してはっきりとした理由が見当たらない場合です。単極性うつ病の発症においては、発症を導くような誘因(きっかけ)がある場合もあります。例えば、転勤、昇進、転居、子供の結婚や、近親者の死、別居、地位や財産を失うなど、ご本人にとって急激な環境の変化や大切なものの喪失などが影響することが多いのです。ただし、これらはあくまで「誘因=きっかけ」にすぎません。例えば近親者を亡くした方が全員、うつ病を発症するわけではありませんので、これらがうつ病の原因とは言えないのです。
これら誘因についてのほかに、患者さんの生育歴ならびにこれまでの病歴、親族に同じような病気の人がいないかどうか(遺伝的要因があるかどうか)、また、患者さん本人の病前性格(うつ病の症状が出る前の性格がどうだったか)についても確認します。内因性うつ病にかかりやすい病前性格としては、以下のものが挙げられます。

 

■循環気質
 ∟肥満型体型の方に多い性格。人付き合いがよく、親切で親しみやすく陽気で明るい状態と、
  物静かで柔和、落ち着きがあり、陰気になる状態の両方が顕著に出る。主として躁うつ病
  (双極性障害)の病前性格

 

 

■執着性格
 ∟責任感が強い、仕事熱心、几帳面、律儀で正直・素直、熱中しやすく凝り性で徹底しな
  いと気がすまない性格。完璧主義のため、仕事や勉強の課題を無理をしてでもこなそう
  としてしまい、心身ともに疲れ果て、うつ病を発症しやすい。

 

 

■メランコリー親和型人格
 ∟秩序を重んじ、仕事に堅実で、他人に対する配慮を欠かさない常識的な性格。融通が利か
  ないため、トラブルがあった際に、行き詰まり、うつ病を発症しやすい。例えば、仕事は
  正確に果たすが、仕事量が増えた場合に質を維持できなくなると、質と量の両立に悩んで
  うつ病を発症する。

 

世界的基準DSM-IVによる分類・診断

精神障害・精神疾患は身体疾患に比べ研究の未発達なところが多く、分類や診断基準が国によって、また、医師ごとにもばらばらでした。そのために、同じ患者さんが、医師によって異なった病名をつけられることが起こりうる状況が長く続いていました。これらを解消し、世界的な基準を設けて、統計や研究が行えるようにするためにアメリカ精神医学会によって作成されたのが、精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM)です。1952年にⅠが出版されて以来、改稿が重ねられ、2013年のⅤが最新版となっています。

それでは、実際の診断基準を見てみましょう。実際はもっと詳細に症状について書かれていますが、ここでは簡略して以下に紹介します。

DSM-Ⅳによる大うつ病障害の診断基準

以下の症状について5つ以上の症状を満たし、そのうち少なくとも一つは①または②を症状に含み、症状が2週間以上続いているか?

① 毎日のように、ほとんど1日中ずっと気分が沈んでいる。
② 何に対しても興味がわかず、楽しめない。
③ 毎日のように、食欲が低下、または体重の増減が激しい。
④ 毎晩のように、寝付けない、夜中や早朝に目が覚める。
⑤ 毎日のように、動作や話し方が遅い、またはいらいらしたり、落ち着きが無い。
⑥ 毎日のように、疲れを感じたり、気力がわかない。
⑦ 毎日のように、自分に価値が無い、または申し訳ないと感じる。
⑧ 毎日のように、仕事や家事に集中したり、決断することができない。
⑨ この世から消えてしまいたいと思うことがある。

これらに加えて以下の事項を確認します。

・耐え難い苦痛を感じたり、社会的な活動や仕事・家事などに支障をきたしていること
・これら症状がアルコールや薬の乱用、ほかの身体的な病気(例えば甲状腺機能の低下症やパーキンソン病など)によるものではないこと
・近親者の死亡などの悲しい出来事などが誘因とは言い切れないこと

以上すべてを確認したうえで該当するものをうつ病(大うつ病性障害)と診断します。
また、平日の仕事がある日は会社に通うのもおっくうだが、週末はレジャーやスポーツで気分転換ができるという方は、大うつ病とは診断しません。最近ではこういった症状は現代型うつ病や新型うつ病などと呼ばれ注目されるようになってきました。しかし現代の精神医学においては、現代型や新型と呼ばれるうつ病について、標準化された医学的な定義はなく、これらは一般で使われているうつ病分類のための用語であり正式な病名とは捉えられていません。
これらの診断基準を使えば、ある程度の傾向は見出せますので、自己診断は禁物ですが、2週間以上続く症状が複数あり、気分の落ち込みや興味がわかないという状態が一日中続いて日常生活に支障をきたすようであれば、早めの受診をおすすめします。