うつ病を可視化した光トポグラフィーの効用とは

うつ病の治療

もしもうつ病が見える治療機器があるとしたら? 長い間、うつ病は“見えない病気”でした。うつ病の診断は患者や身内への問診によって医師が行うもので、客観的なデータによる診断方法がなかったのです。また、うつ病の症状はうつ病の種類によって、また、人によってもさまざまに違うため、ベテランの医師でさえ、正確に判断するのは難しいとも言われてきました。
患者を取り巻く環境も厳しいものがありました。誰が見ても分かるような、体の傷があるわけでもありません。しかし、うつ病の方の心は確実に蝕まれています。何もする気にもなれず、暗く沈んだような憂うつな日が続くことは想像以上の苦しみです。「本人のやる気の問題なのでは」「甘えているだけだ」心ない人たちの言葉は、うつ病の方の心に深く突き刺さります。もしもうつ病が目に見える病気だったら、そういった誤解や偏見を持たれることもなくなるでしょう。光トポグラフィーとは、そうした誤解や誤診を取り去ることに成功した技術なのです。

脳の血流の状態を可視化し、うつ病の種類まで特定することに成功

脳をめぐる血液の役割

光トポグラフィーをご紹介するには、脳と血液の関係の説明が欠かせません。脳が健全に機能するためには、脳の血管を流れる血液、つまり脳血流が必要不可欠です。脳血流には、血液中に含まれる酸素や脳の唯一のエネルギー源であるブドウ糖を脳に届ける役割があり、脳の神経細胞の活性化を促します。

光トポグラフィーの仕組み

光トポグラフィーはどうやって、うつ病の可視化に成功したのでしょうか。その足がかりになるのが、先程ご紹介した脳血流。私たちが考えごとをするとき、思考を司っている脳に血流が集中します。このとき、脳血流がどれだけ早く、またどれだけ多く脳に集まるのかは、健常・うつ病・躁うつ病・統合失調症などその人の健康状態で大きく異なります。光トポグラフィーとは、その脳血流のパターンを近赤外光を使用して読み取る装置なのです。

光トポグラフィーを使った診断

光トポグラフィーを使った診断では、まずうつ病の可能性がある患者に光トポグラフィーの装置を頭部につけてもらい、「“あ”で始まる言葉は?」といった簡単な質問に答えてもらいます。ものごとを考え始めると、健常な人の脳には速やかに脳血流が集中し、脳の活動が維持され続ければ血液量も保たれます。しかし、これがうつ病の方の場合だとなかなか血液量が増加しない傾向にあります。こういったパターンは病態ごとに異なるため、脳の活動とそれに伴う脳血流の変化をデータ化することで精神疾患を可視化することに成功しました。これまで目に見えない心の病気といわれていたうつ病も、光トポグラフィーによってついに「見える病気」になったのです。

しかし、光トポグラフィーの診断結果だけではうつ病の診断はおりません。「この脳は健全な脳だ」と誤診をした場合、本当にうつ病に苦しんでいる方がずっと治療を受けられなくなる危険性があるからです。光トポグラフィーによる診断結果は、あくまで担当の医師の判断を補助するものであり、最終的にうつ病と診断するかどうかは問診をしたうえで、医師に委ねられています。

「可視化」したことで得られるもの

光トポグラフィーを利用すれば、はっきりと目に見える形で診断の結果が出ます。うつ病を早期に発見できることも光トポグラフィーのメリットですが、「うつ病であるという証拠」が手に入るという恩恵は、それ以上に大きなものといえます。

これまで、はっきりと外部に現れる症状が少ないことが、うつ病に「ただの甘え」「気の緩み」というレッテルが貼られる原因になってきました。しかし、うつ病の可視化に成功したことで、こうした誤解や偏見が間違いであったことが客観的に証明されたのです。これまでうつ病ではなく甘えだと言われることが怖くて、休職や休学できなかった人、また治療後の社会復帰が難しく感じられていた人にとって、非常に大きな前進といえます。

また、これまでご本人や家族でさえ気づけなかった初期のうつ病も、光トポグラフィーによる診断を受ければ早期発見が可能となり、スムーズにうつ病治療ができるようになりました。早期発見、早期治療はうつ病に限らずあらゆる病気治療の鉄則ですが、これまで「見えない病気」だったうつ病は、慢性化してようやく発見され、症状が進行してからの治療開始となるケースがほとんどだったのです。

このように、光トポグラフィーがうつ病治療に与えた影響は計り知れません。文字通り、うつ病に悩んでいる方に対して明るい光を投げかけたのです。

まとめ

今まで、うつ病は見えない病気でした。しかし、光トポグラフィーで脳の中を流れる血液のパターンを調べることで、うつ病をデータとして確認できるようになりました。はっきりと目に見える形で診断結果が出ることで、ご本人もご家族も、これまで以上に安心してうつ病の治療に臨めるでしょう。

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