「心のこもった料理は味覚に働きかける力がある」と信じる

プロフィール
楓 20代 女性
看護師として勤めている際に、強すぎる仕事への責任感と上司からのパワハラが引き金でうつ病発症。休職と退職を経て本格的に治療に取り組み、3年後に別の病院で職場復帰を果たす。現在も気分の波はあるが自分でコントロールできるようになった。
お困りごと
味覚障害

 

何を食べても砂の味しかしない…味覚障害は心のSOS

最初に気づくきっかけになったのが、夕食で並んだ唐揚げです。一口食べた瞬間「何だか味が薄い…?」と思いました。でも、家族に聞いても味は普通だと言うので気のせいかなと思ってあまり深く考えていませんでした。しかし、翌日の食事でも味が薄く感じられました。そうこうしているうちに薄味が砂のような味に変化していき、味覚がおかしくなったことに気づきました。
それまではわずかに味覚は残っていましたが、数日もしないうちに全ての食べ物に対する味覚が消え、砂を噛むような感覚に陥りました。

訪れた心療内科でうつ病と診断され、味覚障害も心のSOSなのだと気づきました。だからと言って味覚障害に対する薬が処方された訳でもなく、それからの日々は食卓に着いても2、3口ほど食べた時点で嫌になりそのまま食事を終えていました。完全に食への興味を失ってしまったのです。
以後、ほとんど食事をしないのに不思議とお腹は空きません。仕事でのストレスも重なり体重もみるみる減ってしまい、月経が止まる一歩手前までになりました。こんな日々が一生続くのだろうか…と、そんなことばかり考えて夜はいつも泣いていました。

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浮きたくない一心だけで食べるお弁当…地獄の昼休憩

うつ病と診断された後も休職するまでの間は職場には内緒で仕事を続けていましたが、一番辛かったのは職場の昼休憩です。私の職場では皆でソファに座りテーブルを囲んで食事をするスタイルでした。当然食べなければ変な目で見られてしまいます。
砂の味しかしないものを食べる気にはなれませんでしたが、まだ新人だった私は周囲から浮きたくない一心で食べ物をただ流し込んでいました。なるべくミニサイズのお弁当を買っていくのですが、先輩たちからの「もっと食べなきゃダメよ」の一言がいつも私を追い詰めていました。仕事でのストレスや上司からのパワハラも非常に辛いものでしたが、昼休憩はそれに追い打ちをかけるものでした。
フェイクのためだけに買うお弁当はお金の無駄のように感じられ、食べたくないものを選ぶという行為に嫌気がさしていました。逃げ出したい気持ちで約1時間ソファに座り続け、休憩のはずなのに心は疲れ切っていました。

味覚を取り戻すための努力、そして諦め

休職して間もないころはとにかく味覚を取り戻したい一心で夜中であろうが早朝であろうが、お腹が空かなくても四六時中何かを口にしていました。辛くても食べ続けていれば味覚が戻ってくるかもしれないと思ったのです。
濃い味のカレーやラーメンを食べたり、塩や醤油を直接舐めたこともあります。ケーキやジュースなどの甘いものも食べてみましたが何も変わりませんでした。そのうちに私は抜け殻のようになりました。
胃の痛みでお腹が空くという感覚は全くなく、食事も拒否していたのですが、「食べないと死んでしまう」と言われ私はアイスをリクエストしました。アイスなら溶けてしまうから嫌でも食べられるだろうと思ったのです。もちろん味はしないので冷たい物質が口の中で溶けて流れていくような感覚でした。しかし、無味の固形物を摂取するよりは、遥かにマシに感じられました。

回復のきっかけは父の作ってくれたお粥

そんな中で、私の心を捉えたものがありました。それは、父が作ってくれたお粥でした。なぜか分かりませんがそのお粥だけは食べてみたいと思えたのです。きっとお粥の温かさが父の温かい優しさと重なったのでしょう。
口に運ぶとやはり砂のような味しかしませんでしたが、久しぶりにお茶碗一杯をたいらげました。心を込めてつくられたお粥が私の心に響いたのだと思います。このとき私は味覚と心は繋がっているんだと実感しました。お粥なら食べやすく消化にもいいので身体的にも随分楽でした。このお粥生活はしばらく続き、私が完全に味覚を取り戻すまで3カ月ほどかかりました。少しずつですが味覚が戻ってくのが分かり「美味しい」と感じられるようになっていきました。

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私の場合は父の作ってくれたお粥をきっかけに回復への道をたどりました。○○が良いと断定はできませんが、薬を使わず回復した私から言えることは、心を込めて作られた料理には味覚に働きかける力があるということです。味覚障害は人からは見えない苦しみです。でも大丈夫。必ず味覚は戻ってきます。食べる喜びを感じられる日がきっとやってきますよ。

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